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料理の模倣 思考の訓練 文鳥のモフ

『滅するべきして生まれた生物』

 短編小説を書いてみました。興味のある方だけどうぞ。

 

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『滅するべきして生まれた生物』

 

 体長9mの世界最大の動物「ゴームス」が、突如うなり声をあげた。

 大木のような太い脚に、象のような長い鼻。その鼻は上下に裂け、ワニに似た細かい歯がびっしりと並んでいる。ゴームスの身体は、中に水でも溜まっているかのように、ぷっくりと膨れていた。

 ゴームスが発見されたのは50年前だと言われている。その巨大な身体でなぜ今まで発見されなかったのかの議論が、その時代の流行りだった。生物学的に見て生存するのは難しいと言われていたゴームスだったが、周辺の自治体や「ゴームスを救おう」というTVのチャリティ番組などの協力により、今まで生き長らえてきた。

 発見当初の新聞にこう書かれている。

きょだいな生物がアフールの地を覆った。その生物は微動だにせず、しかし危険な存在である。視察に行った4名がその生物によって亡くなっている。最近になって巨大生物を救おうという運動があるが、当局では、その生物に関する問題の是非について取り上げていきたい。 

 生物学者はこう語る。

 「ゴームスが草食動物なら、なにも問題はなかっただろう。問題は彼が巨大が故に動けなく、それでいて肉食だということだ。草食動物は肉食動物には近づかない。ゴームスは動けないため、獲物が近づいてくれるのを待つんだ」

 

 飼育員がエサを与えるのは、朝と夕方の2回だけだ。基本あまり動かないため、食が進まない日もある。エサは、鶏肉をミンチにして与える。象のような長い口には鋭い歯が並んであるが、見せかけだけなのか噛み切る力はなく、骨付き肉を与えた時は、一度は口に入れるが結局は食べなかった。

 まみは写真や映像でしか見たことのなかった、その巨大生物を眺めていた。ゴームスの周りをぐるりと歩いてみる。おしりからは筆のような尻尾がだらりと伸びていた。馬の艶っとした尻尾とは違い、とてもがさがさしていた。太い脚には、いつ付いたのか不明な傷が刻まれていた。それが傷なのか自重で沈んだ皮膚なのかは分からない。黄土色に変色した皮膚が、長くこの地に佇んでいるんだと思わせる。つぶらな目元はとても可愛らしく、とても肉食とは思えないほど。しかしその一点だけを見つめながら全体を視界に納めると、その巨大さに恐れを感じてしまう。

 ゴームスの寝顔を眺めているまみのもとへ、飼育員が話しかけてきた。その飼育員が言うには、こんな時間に眠るのは珍しいということと、なにか様子がおかしいということ。まみがゴームスの様子を見ていても、何もおかしなところは見当たらないが、長く飼育してる人には分かるのか。まみが質問すると、飼育員も分からないという。ゴームスはゆっくりと瞳を開き、空を見上げた。

 それはうなり声というべきか、轟音に似た鳴き声があたりに鳴り響いた!荒々しく甲高い声で泣き叫ぶ。それと共に地響きが起こる。地響きの原因はゴームスの脚踏みで、前足と後ろ足それぞれを交互に動かしていた。人々は後ずさり、囲んでいた柵はぶっ壊れた。ゴームスの肌からぶくぶくと蕁麻疹のようなものが現れる。それはやがて大きくなりぶちぶちと音を立てて壊れていく。水銀のような質感を持った泡が、ゴームスの皮膚から溢れ出る。空間を裂くような轟音が高い音から低い音へと変化し、身体全体に気泡が浮かび上がる、と同時に絶対的な存在感を持つゴームスの身体が一気に収縮していく。まみの耳元では未だに轟音が鳴り響いていた。


 

 久しぶりに小説のようなものを書いてみた。昔は不思議動物を、かも存在しているかのように描写するのが好きだった。いないんだけど、どこかにいそうな的な。

 過去に「一本豚」という小説を書いた気がしたけど、どこか行っちゃった・・・。